【第101話】失意の檻

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「……何だ、アラン」 マスキュリンは立ち止まり、背後にいる従者に声だけを向けた。 アランと呼ばれた男・アラン=グリスファー。 さらさらと風に揺れる銀の髪、漆黒のマントのその下には国の兵士の中でも誉れ高い者だけがその着用を許されるという白銀の鎧を身に纏っている。  騎士の名に相応しい、高い背丈に引き締まり、鍛え上げられたその肉体。  表立つ威厳、品位を見れば、誰しもが騎士としての誉れである王族近衛兵としての働きぶりを認めることだろう。 「裏に知られぬよう身柄を確保した……にもかかわらず、牢に閉じ込め、あまつさえお会いにもならない…一体どのようなお考えでいらっしゃるのか、と」 騎士・アランはその表情を変えることもなく、ただ淡々と言葉を述べた。 アランから離れた場所にいるマスキュリンは右手のひらを額に宛てて短い溜め息をついた後、再びアランに視線を向ける。 「お前は解っているだろうに、敢えて俺の口からそれを言わせるのか?」 冷静沈着なはずのマスキュリンの声は幾分震えているようだった。 「……いえ」 「ならばもう何も言うな……俺は部屋に戻る」 アランの答えを聞いたマスキュリンはじろりと彼を一瞥すると、それからすぐに牢屋の入り口へと消えていった。
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