【第101話】失意の檻

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アランを尻目に、マスキュリンとヴァーミリオンの会話は進む。 「……先日閉じ込めた『鼠(ねずみ)』とやらを引き取りに来た」 執務机の向かいにある一人掛けのフェイクレザー製チェアに腰を下ろしたマスキュリンは、ヴァーミリオンの横柄な態度など意にも介していないというように、どかっと乱暴に腰を下ろすと腕組みをし対峙する彼の者を睨み付けた。 「鼠、ねぇ……」 口に運んだワイングラス越しにマスキュリンを見下ろすその視線には明らかな刺があった。 「それは先刻片付けた2人組のことか?」 空になったワイングラスを執務机に置いたヴァーミリオンは執務机の奥に控えている台から黒い色の布が被さったトレイをマスキュリンのすぐ前にある応接机に置いた。 その布の下には、2つの丸みを帯びた物体の形が浮かび上がる。 マスキュリンがその黒い布をめくろうと手を伸ばしたその時…… 「―――!! マスキュリン様、その布をめくってはなりません!」 気配に気付いたアランがマスキュリンを制し、彼女の前に立った。 「くく、お姫様とやらには刺激が強すぎるってわけか?」 ヴァーミリオンの口角にいやらしいカーブが描かれ、それと同時に執務机に立て掛けてある剣の収まった鞘が空を斬った。 パサリ、という音とともに掛けられた黒い布が床に落とされた。
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