序章

2/4
前へ
/9ページ
次へ
「なんかつまんなーい。」 大きく伸びをしながら 喚くように吐き出した声は、 くるり。 一度あたしの上で回転して 空へと吸い込まれていった。 毎日毎日、 決まったように 朝の通学路の薄い水色を 引き伸ばしたような空や、 晴れやかな日差しに 照りつけられる大地や、 冷たい群青の粒を含んだ夜風に向かって 解き放たれては 淡く消えてゆく言の葉。 その声は 時に何処か張りを持ち、 しかし時には しんなりと湿っぽかったりもする。 まだ新しい季節は 始まったばかりなのに、 あたたかな陽気にも きらめく星屑にも 舞い散る花びらにも 心は踊らず、 淡く美しいはずの色彩の中で あたしの目に映るそれらはすべて 黒くくすんでいる。 これといって 困ったことも 悲しいこともない。 寧ろ、 何かに捕らわれ 悶々と苦悩に頭を痛めるのは とてもステキなことに思えたりもする。 可愛らしい洋服や キラキラ光るアクセサリー。 パッと華やかになるお化粧も、 甘くて溶けてしまいそうなスイーツも。 確かにドキドキと あたしの心を揺さぶるのだけど、 どれも中学生の お小遣いでは買えない 高価なものばかり。 手に入らないと 分かりきったものに 神経を使うほど、 もう子供じゃない。 どんなに欲しいと願っても、 今のあたしには叶わぬ願い。 そのくらいの現実、 14歳でも見極めているつもりだ。 だけど。 どんなに現実を見極めていても、 つまらないものは つまらないのだ。 退屈な気分を 発散する術を知らないあたしに、 退屈はどんどん 容赦なく襲いかかってくる。 ああ。 つまらない、つまらない。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加