序章

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新しい友達も 新しい先生も 新しい教室も嫌いじゃない。 目の大きくて色の白い、 とても可愛らしい 友達も出来た。 家には先日、 父の提案で コーギーの子犬がやってきた。 日曜大工が趣味な祖父と 大きな犬小屋と 小さなブランコを 庭に作った。 犬小屋は子犬には大きすぎ ブランコはあたしより 少し小さかった。 満たされている。 絵に描いたような 幸せな家庭。 夢のように充実した毎日。 だけど、 思春期の複雑な 年頃のあたしには それが理解出来ず 平和すぎる毎日の繰り返しは、 ただの退屈でしかなかった。 「ああっ。つまんないっ。」 大きく声を 張り上げてみても、 それは変わらない。 隣を歩く香代は それを「はいはい。」 と、受け流した。 「いい加減聞き飽きたよ。  えみのつまらない症候群。」 飲んでいたカフェラテの ストローを噛みながら、 香代が口端だけ上げて にやり。と笑う。 黒染めが抜けきって 赤みがかった毛先を 気にしながら、 香代はすぐに自分の話へと 話題を切り替えていた。 すぐ隣でローファーの かかとを踏み潰して、 目の周りを真っ黒の ラインで囲み 目頭とまぶたを 白いアイシャドーで 塗りつぶした麻弥が 乱暴な言葉遣いで 受け答えをしている。 見るからに派手で目立つ二人が 始業式のクラス替えで 知らない人ばかりになった 教室の中であたしに 声を掛けてきてくれた時は 本当にうれしかった。 「ねえねえ。名前なんていうの?」 香代が親しみやすい やわらかい笑顔で 話しかけてきてくれて 麻弥は香代の後ろから 身を乗り出すように 「うちは麻弥。」 と、ハスキーな 低めの声で名乗ってくれた。 うちの中学は エスカレーター式の 私立の学校で 下は保育園から 上は大学まである。 あたしは中学受験で この学校に入学した。 特別頭の良いわけではなくて どちらかというと お金さえ払っててくれれば良いという ゆるい考え方の学校だった。 だから、校則も あるようでないようなもの。 制服はスカートと上着、 カバンだけが規定で ソックス靴 リボンセーターなどは 自由だった。
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