2人が本棚に入れています
本棚に追加
「責任を取らされて一緒に追い出されたよ」
「僕はそんな祖父を知りません」
「あれから源次郎さんもすっかり人が変わってしまった。私も再三注意はしたんだが」
「先生はその時……」
「私も一緒さ。この事務所を立ち上げたのもその時からだ」
「申し訳ありません」
「君が謝る事じゃないさ。幸太郎さんの本性を見抜けなかったのは私も同じだから」
藤堂氏は『そうそう』と言って、奥の間から一枚の書面を持ってきた。
「これは私が預かっていた源次郎さんの遺書だ。見るかね?」
「失礼して拝見します」
弁護士が預かっていたともなれば遺書としては正式なものだ。
遺産がどうのとか財産がどうのとかではない。
源じいの名で署名されたその遺書には、一言『佐野幸太郎の正体を暴け。復讐には復讐を。頼んだぞ』とだけ記されていた。
まるで僕が遠い将来、ここに来てこの遺書を見るのを予見していたかのような文面だ。
日付を見ると、それは三十年前のものだった。
最初のコメントを投稿しよう!