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遠い日の復讐(おもい)
1
僕は佐野建設の前に立った。
源じいの遺言はあまりにも抽象的で、その実、何から手を付けてよいのかすら判らなかったが、先日同様、追い出されるのを覚悟でやってきた。
どうせ会ってはくれないだろう。
案の定、受付で『少々お待ちください』と言われたまま、警備員に摘み出されてしまった。
これでは埒が開かない。
向こうは僕を避けている。
源じいの部屋を荒らしたのがあの男だとすれば、もしかしたらまだ何か残されているかも知れない。
あの男が欲しかった何かが……
僕は実家に戻り、源じいの部屋を隈なく探した。
ふとゴミ箱を見ると、びりびりに引き裂かれた紙切れが入っていた。
それをセロファンで張り合わせ、一枚の文書にしてみると、それは先日見付けた辞令と同日に出された、もう一枚の辞令書だった。
佐野幸太郎はこの時、佐野建設から追い出されている。
その時何があったのかは知らないが、実の兄弟で同日に片や社長で、片や解雇だ。
それだけにその後の二年間、あの男がどのような気持ちでいたのかは容易に想像が付く。
これは源じいと父に対する復讐……
だとしたら、僕の実の兄がなぜあの男の元にいるのか。
養子縁組までして欲しかったのはなぜだろう。疑問が残った。
僕は探す手を止め、居間にある電話から藤堂法律事務所に連絡を取った。
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