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「僕が社長になってから初めての人事だし、ここは失敗出来ないんですよ」
「そんなの人事課の仕事でしょう」
「いや、父から『たまには社長らしい事をしろ』と発破掛けられましてね。今回は私の独断です」
「お父上、会長はどうされておられますか?」
「会長室にいるんじゃないかな?僕なんて肩書だけの社長ですよ」
「そうですか……」
兄は傀儡でしかない。操り人形だ。
この人は自我に欠ける。僕から見ても社長の器ではない。
そんな兄を表面に出したのは、恐らくその方が自由に動けるからだろう。
慌てなくてもそのうち嫌でも会える。
敵はあの男ひとりだ。
僕は社長に一礼をすると、踵を返して部屋を出た。
配属は開発部、課長補佐待遇だ。
このまま会社で伸し上がって連中を追い出すのも悪くない。
創設者の御曹司などと偉そうに踏ん反り返ってはいるが、既に一度追い出された身だ。
再び追い出してやる。
あの男を『父』と呼ぶからには兄も同罪だ。
これが父とあの男のように実の兄弟間での骨肉の争いになろうが、とうに覚悟は出来ている。
僕はその日以来、毎日のように会長に会う機会を狙っていた。
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