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裏町
1
僕が名を翔太と改めたのは、行方不明だった父の遺体が公園で野晒しのまま発見された翌日だった。
両親からもらった名前を変えるなど、やはり尋常な精神状態では考えられなかったが、ここにきて、やはり日々をただ過ごしているだけの母といざ二人残されたともなれば、いくら長期に亘って不在とは言え、父の存在が失われたともなれば自我に頼らざるを得ない。
父の葬式には、源じいの時とは違い、あれだけいたはずの親戚と名の付く人達は誰ひとり来なかった。
唯一出席したのは、父の古くからの友人がひとり。あの『兄を知る男』も『兄』すらも顔を出す事はなかった。
兄からすれば……実のところ、あれ以来真実を確かめる手段はなかっただけに、もし実の兄ならば、父は本当の肉親のはずだ。
兄も今年で三十歳になるはず。事の分別の着かない年齢ではない。
本人の意思でこないと言うのならば、僕はその存在を認めない。
それだけの事だ。
僕は母を近所に住む母の友人に託すと、家を飛び出した。
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