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僕には付き合って半年になる彼女がいる。
桂子と知り合ったのは夜半、暗がりで暴漢数人に襲われている時だ。
酔っ払って足元も覚束ない男たちが、ごーごーと音を立てて通り過ぎる高架の下で、その音さえ上回る大声を出し、彼女を隅に追い詰めていた。
僕はその中のひとりにそっと背後から近付き、残りの連中にばれないように羽交い絞めにした。
ものの数十秒でおとなしくなった男の存在に他の連中が気付いたのは、隙を見て彼女の手を僕が引いて走り出してからだ。
振り返る事なく五分ほど走って、人通りの多い街中に出た。
ここならもし追ってきたとしても嫌でも人目に付く。大騒ぎする事もないだろう。
そこで初めて彼女のかを見た。
まだ幼さの残る顔立ちを少し濃いめの化粧で隠し、派手な服装のわりには可憐で、まるで百合の花のような雰囲気だった。
その日以来、僕は時々、彼女の部屋を訪れるようになった。
桂子には僕の子ではない男の子がいる。
知る限り、彼女には過去、亭主と云うものがいない。
ひとりで産んでひとりで育てる。
二歳上。ちょうど兄と同じ歳だ。
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