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そんな彼女の部屋に転がり込むようになって半年が過ぎたある日、新聞の一面に見た事のある顔が載っていた。
あの男だ。
父の兄と名乗る男。
父の葬式にも出席せず、その居場所すら知らなかったあの男が、海外のメディアに囲まれて、満面の笑みを放っていた。
どうやら海外事業の一環として、日本の技術支援でダムを建設するらしい。
その旗頭があの男だ。
佐野幸太郎
『佐野』と聞いて、僕は源じいを思い出した。
佐野は源じいの苗字だ。
僕が源じいを幼少時分に祖父とは思わなかったのも、自分とは苗字が違っていたからなのだ。
僕はその新聞を丸めてポケットに捻じ込み、桂子が帰るのを待って事前にネットで調べた佐野邸に向かった。
時間は夜中だと云うのに窓からはこうこうと灯りが漏れ、中で忙しなく動く人の姿が見える。
佐野建設社長、佐野幸太郎
近年、黒い噂の絶えない建設会社だ。
恐らく海外事業も裏金を使い、政界と癒着して勝ち得た仕事なのだろう。想像が付く。
僕は呼び鈴を鳴らして、しばらく様子を伺った。
二階のカーテンが少し揺れたように見え、ほどなくしてやってきた警察官に尋問されて、僕はその晩、留置所で明かす事となった。
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