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着実に故郷に向かっている。そんなときだった。
「なあ、…本当にチベットに向かっているのかい?」
不意に、母が言った。息子は驚いた。後で解ったことだが、母は、旅をするうちに、地域ごとに服や髪などの特徴を覚えていたのだ。息子は意を決して、母に事の次第を打ち明けた。
「ごめんよ母さん…旅に出るとき、母さんと一緒なら、何処へも行ける気がした。けど……」
話しているうちに、涙が溢れ出す。無力な自分が、情けなかった。
「この世には、行けない場所も、あったよ。………ごめんな…」
次々と出てくる涙を拭おうともしない息子に、
「私の方こそ、無理なことを言って、ごめんな…」
そう言って、優しく抱き締めた。
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