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それから息子はある決心をした。旅支度を整え、母の遺骨と灰をリヤカーに乗せ、再びチベットを目指した。 それからまた、母との二人旅が始まった。しかし、峠の坂で、ついに息子は倒れてしまった。もう息子も年だった。 気がつくと、そこはベッドの上だった。通りかかったトラックの運転手が運んでくれたらしい。しかし、医者には 「これ以上、リヤカーによる旅は不可能です」 と言われた。だが、医者はこう続けた。 「この先の町までは大丈夫でしょう。ですから、そこの交通省にいる私の友人を訪ねてください。」 数日後、その人のところを訪ねると、ここから先は、車で行ってくださいと言われた。しかし、その車を見たとき、息子は絶句した。その車とは、トラクター型のリヤカーだった。最後までリヤカーで旅を続けてほしいという、その人の配慮だった。 そして遂に親子は、チベットについた。 町を見下ろせる小高い丘に、息子は立っていた。 手には、遺骨と灰が入った箱を抱えている。 「ほら、母さん、チベットだよ。やっとついたんだ。…」 箱から灰を右手に掴む。 「人生で一番楽しかったよ。」 そのまま、灰を風に流した。 母は、息子の笑顔に見送られながら、チベットの空に溶けて消えた。
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