篭城の末

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その時、一人黙っていた宋憲が静かに口を開いた。 「…張恭殿、陛下は何故、自らに禁酒令を出されたと思いますか?」 「…酒に酔って兵士を殴りつけたからではありませんか。」 恭平が素っ気なく答える。 「では、その兵士はどうしましたか?」 「……何を考えているのですか?」 宋憲の意図を理解した恭平は素直に聞いた。 「もし、兵だけが降伏してしまえば、陛下は必ずやご自身を責めるでしょう。ですが、それを指揮する者がいれば、陛下はその者に対して怒りを覚える…。ならば我らがその対象となって、軍全体の士気を維持しようと考えたのです。」 この時、恭平は悩んでいた。 (…宋憲の言葉は真実なのか…?それとも全くの嘘偽りなのか…?) しかし、次の一言で恭平は一つの選択肢にたどり着いた。 「…篭城で兵の士気が損なわれる中、曹操がこのことを知れば必ずや攻めて来ましょう。その時がくれば張恭殿、陛下をお守り下さい。」 そう言った宋憲は涙を流していた。 「我ら不忠の者どもにはこれ以上、陛下のお側にいる資格はありませぬ。張恭殿、ご武運を。」 侯成の言葉が終わった頃、部屋には恭平だけの姿しかなかった。 (…あなた方は不忠の者などではありません…。) 今は冬というのに、その部屋にはどこか暖かい風が吹き込んでいた。
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