記憶喪失

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ゆっくり口を開いたのは先生。 「…瀬戸さん…。 君は、自分の事が分かるかい?」 「…わかりません。」 「…そう…さっきの人達の事は?」 「……わかりません。」 「君がどうしてここにいるかは?」 「……。」 何も分からない。 「ここは病院。 分かる?」 「はい…。」 一息置いて先生は、私の事を教えてくれた。 「キミの名前は瀬戸朔斗さん。 年は18歳だよ。」 ……。 「…女…ですよね?」 「もちろん。 女の子だよ。」 そう言って私の手に鏡を持たせた。 自分で言うのもおかしいけど…、目が大きくて髪は長くて可愛い女の子だった。 初めて見た自分の顔。 「自分は何が分かるか教えてくれるかい?」 ゆっくり鏡を下ろすと、先生は優しい声で言った。 「…基本的な事は分かります。 字を書くとか、読むとか、ここは病院とか。」 ……。 「だけど…人が分からない。 自分も含めて。 さっきの人達も。 自分の今までの記憶もない。 親も。」 その時、先生がビクッと動いたのが分かった。 「…先生? 私の親は?」 難しい顔をする先生。 「まだ、分からない事が多いから一気に知ろうとしなくて大丈夫だよ。」 そう言うと私の頭を優しく撫でてゆっくり休んで。とつぶやいて出て行った。  
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