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音がする。
軽快な音。
愉快な音。
机に何かが当たる音。
「なぁ、なんでさ、お前いっつもサイコロ転がしてんの?」
サイコロの音。
【 サイコロ 】
「好きなんだよ」
友人に訊かれて、松木はそう答えてサイコロをもう一度机に投げた。
それは確率の海に潜り、一つの目を出して暗礁に乗り上げる。
「1……か」
「そーだな」
友人の瞳に映るサイコロは、赤く染まった一つの点を上に向けていた。
「なぁ、1だと何かあるのか?
今日のアナタの運勢は最高です、とかさ」
意味深な松木の物言いに、友人の栗畑は微かな好奇心を滲ませる。
ボウズが少し伸びた黒髪と反射する光が、着ている白い制服を清潔に映えさせていた。
「いいや、何も無い」
首を振りながらサイコロをつまみ上げ、もう一度振る。
賽の目は、また赤い点だった。
「変な奴だよな」
両手を頭に組みながら、三階の校舎の窓から女子生徒の泳ぐプールを見た。
「お前もな」
そんなやりとりをしながらも、松木は新たに三回ほどサイコロを投げて、同じ数の赤い目を出していた。
「おーっ、スゲェじゃん。
五回連続の1だぜ。
次出たら六連チャンだぜ?
ちょっと待っとけよ……」
えーっと、と言いながら栗畑は黒い携帯をポケットから出して何かをしている。
「ほら、見てみろよ。
六回連続で同数が出る確率は46656分の1だ」
どこか誇らしげに携帯のディスプレイを松木に見せる栗畑。
確かに画面には46656の表示がされていた。
「違うよ」
相手に出来ないと言わんばかりに、点の刻まれたプラスチック製の賽を投げながら松木は言った。
「46656分の1なんて大袈裟なものじゃない。
サイコロの出る目は必ず6分の1だ」
手を放れたサイコロは人の手から解放され、確率と偶然の神の抱擁を受けながら転がり始めた。
END
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