秘密

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――1――  幼なじみである安達。 その最初の養父が殺されて十年が経った。 都会に行っていた俺は、昔世話になったこともあり、おじさんの十回忌を機に数年ぶりに地元に帰っていた。 「何年ぶりだろうな? 水切りなんて」  せやッ、と声を出しながら俺は石を投げが、ソレは一度も跳ねずに沈んだ。  沢山の車が往来する橋の高架下に、喪服を着た俺と安達はいた。 太陽の光が、川に出来た小さなさざ波に反射してキラキラと光って眩しい。 「分かんないわよ」  安達は腕をしならせ、サイドスローで石を川に向けて投げる。 回転する台形に似た形をした平らな石は、水に接触する度にその回転力で水を弾き、再び空へ舞った。 「……おじさんを殺した犯人見つかってないんだって?」  何でこのタイミングで言ったかは分からないが、俺は、予想以上に飛んだ石を見てガッツポーズをしている安達に訊いた。 「見つかってないわよ」  次に飛ばす石を選別する為に、彼女は背を向けて河原にしゃがんだ。 眼鏡に適う代物があったらしく、腕を伸ばし片目をつぶって、左手に持ったソレの最終選考をしている。  しゃがんでいる安達の奥。 気持ちよさそうに泳ぐ川魚を見ながら、残り少ない煙草を上着の胸ポケットから取り出して火をつける。  辺りを見回すと、対岸にデカいマンションが建設されているのが見え、そんな些細なことで流れる年月を感じてしまう自分が嫌だった。 「犯人が見つかったら、お前はどうするつもりなんだ?」  右手の人差し指で煙草を小突いて灰を落とす。 ゆっくりと落ちるソレは季節外れの雪に変わって、逞しく石の間から生えている雑草に積もった。 「何もしないわ。 出来るわけ無いしね」  安達は宝物でも持つように、石を握った両手を胸の前に置いて立ち上がる。 「何でだ?」  その言葉に、ひとつまみの隠し味程度の疑問を持った俺は、安達になんとなく尋ねた。 「だって私が殺したんだもの」  腕を大きく振りかぶり、渾身の投球を終えた安達は言った。 その表情は悲しみを含むわけでもなく、笑うようでもなく、ただただ無色透明な真顔だった。
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