*第2章* 記憶の詩

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ロルフがオーギュストに追いついたとき、彼はアンナの肩を抱いていた。 オーギュストは、歩きながらアンナの顔を覗き込む形で、なにやら一生懸命に話し掛けている。 暗い廊下にオーギュストの声が反響している。 「私はアナスタシア」 彼女は、目の前のもじゃもじゃ頭になど、まるで別次元のものかのように、見向きもしない。 逆に、彼女の焦点の合わない瞳は、この今ある世界、現実世界を見ていないようでもあった。 「ええ、存じておりますとも!ぜひ!銃殺を逃れられたすばらしい奇跡を教えていただきたいですね~!」 オーギュストの反響する声と対称に、彼女は風音のような声だった。 「奇跡がおきたのかしら。いいえ、すべては残酷なまでの現実だわ」
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