1、学園

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 少しでも動けば唇が振れてしまう位置にまで沫は顔を近付け、じっとアキトを見据える。  ここまで顔を近付けられたことのないアキトは真っ赤になって、かたかたと身体が少し震えてしまっていた。   「大人なら、キスぐらいはしてるだろ?」 「やっ……やめ、て」    更に近付きかけた沫に、アキトはぎゅっと目を閉じる。     「はい、そこまで~」      気の抜けるような声がしたと思ったら、沫の拘束が不意に解け、思わずアキトはぺたんと腰を落としてしまった。    沫が向いている方向、左側にいつからいたのか、茶色の短いぼさぼさ髪に眼鏡をかけた青年が立っていた。   「何の用だ?真治」 「沫にはないよ~、あるのはそっち」    のらりくらりと歩み寄り、真治はアキトの腕を掴んで起き上がらせる。   「校長先生が呼んでるよ。たぶん部屋についてだから、早く行きな」 「あっ……ありがとう、ございます」    遠慮がちにお礼を言って、小走りでアキトは去っていく。  ふと横を見た時に見えた、沫の熱いまなざしには気付かずに。       「まったく、びっくりしたよ。コウちゃん」 「その呼び方はやめろ」    容赦なしの裏拳を放つも、もう慣れたと言わんばかりに真治は首を軽く傾けて避ける。   「あんなに他人を嫌ってたのに、どんな心境の変化?」 「知るかよ」    素知らぬふうに言うも、真治にはあまりごまかし切れていない。   「まあ分かるかもね~。あの子可愛かったし、でも俺は沫の方が好きかな~」 「気色悪い事をぬかすな」    今度は足にローキックを放つも、これもまた避けられる。   「捕まえるつもりなら、早くした方がいいかもよ?あの子、他の奴から早くも目をつけられてるかもしれないから」 「…………」    おそらく冗談だろうが、情報をよく知る真治が言うと間違いで無いようにも聞こえる。  だが沫は……。     「そのときは、あいつを俺が守ってやるんだよ。そいつらが全員消えるまでな」      それだけ言い残して、沫は自分の部屋に入っていく。   「別にいいけど、自分も狙われてるんだって事を忘れちゃいけないよ?沫」    不敵な笑みを浮かべながらそう言い残し、真治もその隣りの自分の部屋に入っていった。
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