556人が本棚に入れています
本棚に追加
沫の部屋は結構片付いていて、というよりほとんど娯楽になりそうなものがなかった。
一つの部屋で二階建てになっていて、もともと備え付けのベッドに机、本棚には勉強のための参考書があって……、それぐらいである。
コンポはあったけれど聞く曲も少なくて、しかもどれもアキトには知らないアーティストのものばかりだった。
「勝手に色々見てんじゃねえよ」
「にぁう!?」
シャツを猫掴みされて、思わず奇声をあげてしまう。
「さっさと荷物上にあげろよ。歩きにくいから」
「あ、そだね……」
もう荷物はすでに届いていたけれど、ほとんどが下に置いてあるせいか歩く隙間が狭くなっていた。
「じゃあ、まずおっきいのから……」
届いていた荷物の中でも一番大きい、私服や制服の入った段ボールを掴み、
「おい、それ業者の人が二人がかりで……」
「よいしょ」
あっさりと。
アキトの華奢な腕が、明らかに重そうな段ボールを持ち上げた。
「なっ……!?」
そして、そのままとてとてと二階に上って置いて行き、またとてとてと帰って来て他の段ボールに手を掛けた。
「……おい」
「んぅ?なに?」
不思議そうに、アキトは首をかしげて見上げて来る。
首を傾げたくなるのはこっちの方だよ。
「いや、いい」
「?……、変な沫」
そしてまたよいしょと段ボールを持ち上げる。
中身は教科書や辞書やノートで、確か沫が持ち上げようとして断念したものだ。
そのまま、さっきと同じようにとてとてと上がるアキトを見て、なんだかものすごい敗北感と、襲ったりするのは恐ろしく危険で不可能だという事を、沫は肝に命じておいた。
最初のコメントを投稿しよう!