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ベッドに寝転がり、沫はあらかたの荷物を十分も経たずに運んでいるアキトを傍目に眺めて、改めてあの体はどうなっているのかと別の意味で興味を抱いていた。
業者の人でも半分運ぶのに三十分はかかっていたし、その間に休憩だって挟んでいたはず。
だけどアキトは疲れを見せる事も無く、すたすたとまるで部屋を片付けるような心持ちで余裕綽々と荷物を持っては上がり持っては上がりを繰り返していた。
「……これが若さってやつか?」
おじいちゃんみたいな事を呟いて、沫は体を起こす。
「……ん?」
前を見てみると、目の前に一つの段ボールがぽつんと置かれていた。
持って行き忘れたのだろうか、と沫は持ち上げようとして、ずしっとくる重さに驚いた。
「(確かあいつ、さっきこれ持ってなかったか!?)」
沫の記憶が正しければ、つい十分前にアキトが持っていたのはこの段ボール箱だった。
他のものよりもずっと使い古されていて、かわいげな文字で『絶対見ないで』と書かれた貼紙が貼られている。
「…………」
だが、そんなものを貼られて、正直に見ないほど沫の好奇心は薄れていなかった。
「なあおい、この箱って……」
聞いてみるけれど、アキトは二階で段ボールの中身を出すのに夢中で気付いていない。
「(少しぐらい……いいよな。な?)」
誰に同意を求めたのか、沫は自己完結して段ボールに手を伸ばす。
鼓動が小気味好く跳ね上がり、まるでいけない事をするような興奮に沫は楽しくすら思えていた。
箱はガムテープで塞がれていないから開けるだけで済み、一つ目をゆっくり開けてみるとどうやら本が入っているらしいというのは分かった。
本屋で以前見掛けた、ライトノベルの背表紙であろうものが幾つか見えている。
「(少しだけ……)」
そしてさらに手をかけて、開こうとした……。
「だめぇ~!!!」
瞬間、右の側頭部に恐ろしい衝撃が容赦無く襲いかかった。
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