556人が本棚に入れています
本棚に追加
それはもう、そのまま脳が左側から飛び出すんじゃないかという一撃だった。
視界が明滅して、自分が今倒れているのか起きたままなのかも分からない。
重力に従って身体が倒れるが、その感覚が空に向かって落ちるようで気持ち悪い。
おそらく蹴りであろうその一撃を食らう直前にちらついたのは、おそらく走馬灯。
そんな事を考えていたら、今度は左側から鈍い痛みが当たった。
どうやら床に当たったらしいと分かって、そこで沫の意識が戻る。
「っ……!いったぁ!!」
ぐわんぐわんと蹴りのダメージが頭をようやく駆け巡り始めて、容赦なく蹴りをかましてきたアキトを睨み上げた。
「お前……、いきなり蹴りはないだろうが……!」
「見ようとした沫の方が悪いもん!見ないでって書いてあったのに!!」
「それは……だな……」
自分に非があるからか文句は言えず、沫はむすっとしたままそっぽを向く。
そしてそこで気付いた。
「……ちょっと待て、なんでいきなり呼び捨てしてるんだ?」
聞きまちがえるはずの無い自分の名前、だけどあってまだ一時間もしていないのに、呼び捨て?
「え?嫌だった?」
「いや、別に……。ただ、人見知りしない奴だなって思っただけだ」
頭の痛みもおさまってきて、ようやく気持ち悪い感覚もおさまってきた。
「……って、その前に謝ってよ!中身見たんでしょ!?」
「見てねえよ。……少ししか」
「見たんじゃん!!」
「あ~あ~、わかったよ。悪かった」
ころころ表情が変わるアキトに観念して、頭をかきつつ沫は素直に謝った。
言い訳するのも馬鹿らしいと思ったのだ。
「まったくもうっ……。よいしょ、と」
むくれっ面のままアキトは段ボールを軽々と持ち上げて……。
ばつんっ!どさどさどさっ!!
古くて自重に耐え切れなかったのか、箱の中身がぶちまけられた。
最初のコメントを投稿しよう!