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田中ひん
僕が選んだ選択肢は『B』。
B:ブッシュ大統領に電話した。
なぜならBといえばブッシュの隠語とCIAでは決まっている。僕はホットラインを取った。いま何の脈絡もなく唐突に明かされる真実だが、実は僕は日本の首相だったのだ。
「Hello」とブッシュ。
む、英語。脊髄反射で電話を切った。
僕は英語はわからないが、ファッキンジャップくらいはわかるぜコノヤロー。そうこうしているあいだも僕はジョジョ立ちをしている。誌面では伝わらないのが申し訳ない。とても苦しい体勢なのだ。
それにしてもおかしい。確か前のページの選択肢だと『B』はK・Yの番号だったはず。なぜにブッシュ? ブッシュよ、空気読め(KY)。はッ!? なにィ。
つまりはこういうことだったのだ。
『B:K・Yの番号をプッシュした』
↓
プッシュ≒ブッシュ、これを誤差の範囲としてイコールとする。
↓
K・Yとブッシュを置換。
↓
もうここまでくると『~した』とか『番号』とか、ノイズなので除去する。
↓
『ブッシュ、K・Y(空気読め)』
なんだってー! わたし女だけれど、KYっていちばん喜んで使ってるの、オジサンたちだと思う。
……という長いひとり芝居を終え、僕はハードボイルドな気分で事後のコーヒーをすする。ハードボイルドな気分てなんかよくわかんないけど、まあ言ってみたかっただけだ。……ふう。
左手には勢いよく取り上げられたままの受話器。手のひらが汗ばんでいる。右手の人差し指は0の位置にかけられたまま動いていない。
ちくしょう、そうやって現実逃避して? そんなことしているあいだに先輩からの電話が来ないか期待して? なにやってんだ。くそ。
覚悟を決めろ。よし!
僕は番号をプッシュする。呼び出し音が数回。相手が出る。
「はい、ジャパネットサカタです」
くそったれ! 受話器をたたきつける。この期におよんでなにやってんだよ、まったく!
僕は告白したんだ。先輩に! 再び受話器をとる。
A:先輩の番号をプッシュした。
B:K・Yの番号をプッシュした。
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