形梨らぶみ

1/1
前へ
/28ページ
次へ

形梨らぶみ

僕は受話器を置き、纏わりつく悪寒を断ち切るために家を出た。 もちろん、先輩からの連絡は携帯に転送されるよう設定済みだ。 ――少し、頭の中を整理してみよう。 下駄箱に入っていた手紙。 手紙とは、『恋の告白』というイベントに於いては、事前に相手の前に自分の姿を晒さずとも可能な、極めて婉曲的な手法といえよう。 しかし。 KYは何故か僕の下駄箱にそれを放り込んだ後も留まり続け、真っ赤な顔で「私が手紙を出しました。お返事を聞かせて下さい、できれば今日中」と言った。 低く掠れた声で。 そして僕はやや横道に逸れつつも、KYの自宅へ電話をかけ、母親から告げられた事実は――『KYが既に鬼籍へ入っている事』。 どうなっている? いつから世界は歪み始めたんだ? ……素数を数えて落ち着こう。1.3.5.7……よし。 足取り重く、指定された公園に到着。既にKYはブランコに腰掛けていた。 僕の姿を見上げ、キイ、と硬質な音と共に立ち上がる。 「ごめん、待たせた?」 精一杯、明るい声を振り絞ってKYに笑いかけてみる。ぎこちなくても構いやしない。 「……じゃない」 「え?」 「俺はKYじゃない、兄のHYだああぁっ!」 ブゥン、と重そうな釘バットを豪快にスゥイング。 「ヒイィッ! な、なんなんだお前……っ!!」 「お前のせいで妹は死んだんだ! ヒヒヒヒ、俺の女装は完璧だあぁ! ダラアァッ!」 「待て、女装は最初から解っていた!」 「なんだってー!?」 「解るだろ普通! だいたいお前ゴツすぎるんだよ、セーラー服似合ってな……」 「黙れええぇっ!」
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

189人が本棚に入れています
本棚に追加