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形梨らぶみ
僕は受話器を置き、纏わりつく悪寒を断ち切るために家を出た。
もちろん、先輩からの連絡は携帯に転送されるよう設定済みだ。
――少し、頭の中を整理してみよう。
下駄箱に入っていた手紙。
手紙とは、『恋の告白』というイベントに於いては、事前に相手の前に自分の姿を晒さずとも可能な、極めて婉曲的な手法といえよう。
しかし。
KYは何故か僕の下駄箱にそれを放り込んだ後も留まり続け、真っ赤な顔で「私が手紙を出しました。お返事を聞かせて下さい、できれば今日中」と言った。
低く掠れた声で。
そして僕はやや横道に逸れつつも、KYの自宅へ電話をかけ、母親から告げられた事実は――『KYが既に鬼籍へ入っている事』。
どうなっている?
いつから世界は歪み始めたんだ?
……素数を数えて落ち着こう。1.3.5.7……よし。
足取り重く、指定された公園に到着。既にKYはブランコに腰掛けていた。
僕の姿を見上げ、キイ、と硬質な音と共に立ち上がる。
「ごめん、待たせた?」
精一杯、明るい声を振り絞ってKYに笑いかけてみる。ぎこちなくても構いやしない。
「……じゃない」
「え?」
「俺はKYじゃない、兄のHYだああぁっ!」
ブゥン、と重そうな釘バットを豪快にスゥイング。
「ヒイィッ! な、なんなんだお前……っ!!」
「お前のせいで妹は死んだんだ! ヒヒヒヒ、俺の女装は完璧だあぁ! ダラアァッ!」
「待て、女装は最初から解っていた!」
「なんだってー!?」
「解るだろ普通! だいたいお前ゴツすぎるんだよ、セーラー服似合ってな……」
「黙れええぇっ!」
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