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「申し訳ありません。 いささか予定を変更せねばならなくなりました」 前列からの『鈴木』の声に安田は、新しいタバコに火をつけようとして、その手を止めた。 「何事だ?!」 努めて平静を装ったつもりだったが、語尾に不機嫌さが滲み出ていた。 「護衛車両の予定進路上で交通事故が発生した模様でして、、」 「事故、、だと? まさか?!」 安田の反応に動揺が現れる。 「ご安心を、本部の見解では、事故は偶発の可能性が高いとの事です」 冷静、というより無感情な口調。 「…ですが、道路状況の変化に伴い、当初の合流ポイントを変更の必要が生じました」 「大丈夫なのだな?」 バックミラー越しに表情を伺う。 「想定範囲です。ご安心の程を」 「わかった。任せよう」 安田は新しいタバコに火をつけると、深く煙を吸い込む。 『あの方』ならどうしただろうか? ゆっくりと吐き出した煙を目で追いながら、無駄と知りつつも、亡き人に思いを馳せた。 ・・・・・・・・・・・ 三台のリムジンは予定より、いくつか手前の出口から、高速を降りた。 港湾地区の倉庫街。 そこが新たな合流予定地だった。 急な変更であったはずだが、その動きには僅かな迷いも見られない。 『成る程。 確かに、想定範囲内だった、、。 と言う訳か?』 その様子に、安田は男達への信頼を新たにしていた。 『ISSカンパニー』 表向きには、要人警護等を、主な業務としている『警備企業』だ。 業界内では、中小の部類に入る程度の規模だが、人材と装備の質の高さは業界でも有名だ。 各国の特殊部隊から集められた人員と、ほぼ最新の各種装備。 それはもはや『警備』の枠を越えている。 『軍事企業』どころか、軍隊そのものだった。 男達は、そこの『社員』である。 その資質に、なんの心配も要らない。 予告状が届いて、今日までの五日間。 安田は、考えうる全て手を打った。 より強力な力を求めてこの連中を引き入れた。 道路官僚どもに裏から手を廻し、高速道路さえ私的に使った。 引き継いだ力も、自ら築き上げた力も、全て注ぎ込んだ。 予告日は明日。 なんとしても、残り26時間をしのぎきり、尚且つ『あの方』さえ防げなかった暗殺者を排除する。 自分は『継承者』ではない。 より優れた『真の王』なのだ。
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