悪夢強襲

2/2
前へ
/27ページ
次へ
三方をコンテナに囲まれたそこは、音の侵入さえ拒んでいるかの様に、静寂が支配していた。 微かに差し込む月の光が闇をより深く、濃密な物としている。 それは、ある種の感情を掻き立てるには充分だ。 『恐怖』 『不安』 それらの感情は、想像力を刺激し、自らを追い詰める。 『負の螺旋』 それは気が付かないうちに心を闇の深みに引きずり込む。 ・・・・・・・・・・・ 「いつまでこんな場所にいるつもりだ?」 安田の問い掛けに 『鈴木』は、ごく短く 「今しばらく」 とだけ応じた。 安田の方に振り向きもせず、一心に手元の何かを操作している様だ。 安田の中で『不安』が鎌首をもたげ始める。 コンテナが今しも、自分の方に崩れ落ちてくる様な錯覚に捕われ、思わずタバコに手を伸ばす。 だが、最後の一本だと気付き、わずかに躊躇した後、小さく舌打ちして内ポケットに戻した。 不安を振り払おうと腕時計に目をやる。 かなりの時間が過ぎた様に感じていたが、時計の針は、感覚の半分も進んでいない。 一瞬、時計が壊れているのではと疑った程、時間の流れが、ひどく遅く感じられた。 「大変お待たせいたしました」 『鈴木』の声に我に返った。 座席越しの『鈴木』と目が合う。 心なしか、その目は笑っている様に見えた。 「どうなっている?何も変わっていないではないか!?」 安田の問いに答えるかの様に、重い機械音が響き始める。 決して大きくは無いが、腹の底に響く音だ。 「な、、何の音だ?」 冷静を装うつもりが、わずかに声が上擦った。 「ご安心ください」 『鈴木』の声と同時にヘッドライトが点灯する。 その強烈な光に照らされた先に『コンテナ』は無かった。 「?!」 強烈な光さえ、反射させる事の無いそれは、夜の闇の中にあってなお、闇そのものである。 夜の闇の中、ヘッドライトを受け微かに浮かんだ見覚えのある流線型のシルエットに、安田は思わず言葉を失った。 それは、今、ここに在る筈のない、、 否。 在ってならない筈の物であった。 「あ、、あれは、、まさか?」 「えぇ。 『ハイペリオン』です」 その瞬間『鈴木』は確かに笑った。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加