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『ハイペリオン』
それはEU企業体が開発した最新鋭の『戦闘指揮車両』
である。
ケルニック合金を多用した外殻は、戦車砲の直撃さえ楽に跳ね返す強度と耐爆性。
更に放射線、生化学兵器に対して完璧な気密と防御を実現した。
人が造りし、地上で最も安全な場所。
それが『ハイペリオン』の車内と言われる所以である。
破格の高性能。
故に超高価格な車体は、当然その数が少ない。
ほとんどが国軍所有。
唯一の例外が、ISS所有の一台である。
安田自身、これの使用を望みISSと契約したのだ。
「何故、、、何故あれがここにある?!」
安田の口調が怒気をはらむ。
ハイペリオンは、当初の予定合流地点に配置されていた筈である。
「納得のいく説明を、、聞かせて貰えるのだろうな?」
抑え切れない怒りを視線に込め、安田は『鈴木』を睨みつけた。
「まずは、結果として、依頼者様に対して、虚偽の報告をいたしました点につきまして、お詫びを申し上げます」
ただうわべだけとわかる丁寧な口調で『鈴木』は正面を向いたまま、軽く頭を下げた。
「ですが、、これこそが『本来の計画』である事をご理解下さい」
「『本来の計画』だと?どういう意味か?」
「その件につきましては『アチラ』でご説明いたします」
『鈴木』が『ハイペリオン』を指し示した。
『鈴木』が短く何かを告げると、前の車両から二人の男が『ハイペリオン』に向かうのが見えた。
「必ずや御納得頂けると確信しております」
振り向いた『鈴木』は、はっきりと笑顔を浮かべていた。
「ルテナン!」
運転手の男の声に弾かれる様に正面を向く。
ヘッドライトに照らされる中、二人の男が不自然に崩れ落ちる姿が視界に入った。
車内の誰もが言葉を失った。
「どうした!何が起き、、!」
ショックからいち早く立ち直った『鈴木』の言葉が途切れた。
『白い顔』
いつの間にか『ハイペリオン』のボディ中頃に、『白い顔』が浮かび上がっていた。
アンティークのピエロを思わせる、それは『白い笑い面』
ゆらりと闇の一部が揺れた。
『ハイペリオン』の背景に溶ける色合いの服を着ているとわかった。
不意に、面が上に移動した。
フワリ、、と羽が舞うように。
そして、、そこで止まった。
何も無い筈の場所に、、浮いていた。
虚空から、見下ろす
『白い笑い面』
それは悪夢以外の何物でもなかった。
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