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眼下に煌めく地上の星。
その煌めきは、多くの人々の営みの証だ。
その煌めきを、常に誰よりも高い場所から見下ろす事のできる者。
それこそ『王』に相応しい。
辰村勝元
(たつむら・かつもと)は、いつもの様に街を見下ろしていた。
鋭い眼光、決して大柄ではないが引き締まった身体に仕立てのよいスーツが似合っている。
今年72歳にはとても見えない。
ここは都内最高の高さを誇る超高層マンション
『アバロン・ヒルズ』
その最上階。
日本で最も神の領域に近い場所。
ここに地上の喧嘩は届かない。
静謐な時間が、ゆっくり流れていく。
ふと思い出したように時計に目をやる。
11時57分
後三分程で、今日が終わる。
「やはり、、な」
皮肉な笑みが辰村の口許に浮かんだ。
三日前に辰村の下に届けられたそれは
『暗殺予告状』
その予告日は、今日であった。
それもあとわずかで終わる。
「質の悪い悪戯か、、」
このての『悪戯』は、年に何度かある。
大低は、只の脅し。
むろん、油断するつもりは無い。
常に充分な備えをしてきた。
稀に馬鹿な『身の程知らず』が実際に事を起こす事もあるが、成功した者はいない。
全て捕まえ、充分な報いを受けさせてきた。
『敵対者には、徹底的な制裁を!』
辰村の哲学の一つだ。
辰村が、このフロアを出る事は、ほとんど無い。
年単位で見ても、数える程でしかない。
用心の為ではない。
単に外に出る必要が無いのだ 。
『衣食住』を含む生活の全てが、ここには存在する。
いつの間にか、何かと騒がしい下界から距離を置くようになっていた。
人生の過半を、経済と言う怪物を相手に財力と言う武器を蓄え、各界に人脈を作り上げ、
いつしか、裏の世界で
『その力、一国の王に比肩する』
と称された彼にとって、ここは城であり、自らを奉る神殿であった。
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