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不意に執務室の扉がノックされた。
「?」
辰村は首を傾げた。
時計見る。
11時58分
定時報告にはまだ早い。
一瞬、不安が心を過ぎる。
「まさか、、な」
このフロアに来るまでには、数十もの人的、機械的チェックを潜り抜けなければならない。
今まで、突破できた者はいない。
念のために、執務机の裏に廻る。
「入れ」
辰村の声に続き、執務室の重い扉が、ゆっくりと開く。
黒いスーツの男が立っていた。
長身で、スーツの上からでもハッキリ判る程、がっちりした体格だ。
はっきり言ってスーツが全く似合っていない。
警備責任者の
『磯部』だ。
下の名前は知らない。
否、覚える必要もない。
傭兵として、幾つもの紛争地帯を渡り歩いて来た経験豊富な男だ。
単なる『筋肉馬鹿』ではない。
そこそこ頭がキレ、気働きができる。
そして、何より忠実だ。
給料に見合った働きの出来る男と言えた。
「何事だ?磯部。
まだ定時報告には早いぞ?」
辰村の問い掛けを無視する様に、緩慢に歩を進める磯部 。
その歩みは、まるで操られているかのように、どこか不自然だ。
辰村の心を強い不安が襲う。
「磯部っ!どうした!」
辰村の叫びに応えるかの様に、前のめりに崩れ落ちた。
「なっ!?」
倒れ伏した磯部の背後。
その床の上に、いつの間にか『黒い塊』が現れていた。
音も無く、塊が盛り上がる。
人が立ち上がったのだと認識するのに、わずかに時間がかかった。
それは、全身黒づくめのフード付きマントを纏った人間。
俯き気味の顔に、目深に被ったフードがかかり、その顔を見る事は出来ない。
「だ、、誰だ!」
辰村は自分の声が、わずかに上擦るのを感じた。
奴が顔を上げる。
フードが、わずかにずれて、顔があらわになる。
「!!」
辰村は思わず絶句した。
フードの下から現れたのは、『白い面』
アンティークのピエロ人形を思わせるそれは、
『無表情な笑い』の面!
それは、まさに悪夢そのものの光景だった。
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