42人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふう・・・。なんとか完成したけれど」
紅魔館・厨房。
そこでは料理を作り終えたパチュリーが、ある物を見つめていた。
「結局、これだけね。まともに作れたのは・・・」
テーブルの上には、皿に乗った不格好なおにぎりが3つ。それだけだった。
無論、パチュリーとてわざとおにぎりだけにしたわけではない。
本を片手に、慣れない手つきでいくつかの料理に挑戦してみた。
・・・結果、
から揚げは焦げ茶色の塊になり、卵焼きはなぜかぐちゃぐちゃ、野菜炒めは炭と化していた。
消去法で、唯一まともに出来たおにぎりだけ残ることになったのである。
「まさか自分がここまで料理下手だったとはね・・・誤算だったわ」
(なんて、冷静でいられる「料理下手」のレベルじゃないと思うんですけど・・・)
その様子をしっかり目撃してしまったのは、小悪魔だった。
戻って来てから、弁当を作るなら厨房だろうと、こうして首尾を報告しにやってきたのだが・・・
(こ、これは、見なかった事に・・・)
「で、どうだったの?小悪魔?」
「あ゛」
ばれてました。
「・・・で、魔理沙は博麗神社に?」
「はい。お腹空かせてらっしゃいましたよ」
パチュリーは椅子に座り、おにぎりを一つずつ丁寧に弁当箱に詰めながら、報告に耳を傾けていた。
ちなみにパチュリーの料理の件は話の最初に、
『パチュリー様、その料、』
『それで、魔理沙は何て言ってたの?』
『あ・・・』
華麗にスルーされていた。
「博麗神社か・・・。霊夢がいるといろいろ厄介ね・・・」
何とか魔理沙と二人きりで話したいパチュリー。どうしたものかと思っていると、
「あ、霊夢さんならいらっしゃらないようでしたよ」
「あら、そうなの?」
それは好都合だった。
どんな理由で外出しているかはともかく、それならば霊夢が帰宅する前に事を済ませるべきだ。
そう判断したパチュリーは弁当箱を素早く花柄の巾着袋に入れ、厨房を出た。
そして、玄関前。
「それじゃ、行ってくるわ」
そう小悪魔に告げたパチュリーの顔は、今までにないほど、決意に満ちていた。
「はい! ・・・パチュリー様、ご武運を!」
「ふふっ、大袈裟ね。戦いに行くわけじゃないのよ?」
そういうとパチュリーは、外へ駆け出していった。
・・・小悪魔の言葉の本当の意味を理解しないまま。
「・・・いえ、これでいいんです。恋は本当に、戦いなんですから」
小悪魔は一人、すでに届かない言葉で彼女の勝利を祈った――
最初のコメントを投稿しよう!