或る二人の思惑。

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パチュリーが大いに悩んでいたのとほぼ同時刻。 マーガトロイド邸・書斎。 此処にも同様に、机に向かう少女の姿があった。 大きく異なるのは、その少女がペンを執り、熱心に一通の手紙をしたためていることだ。 この少女はアリス・マーガトロイド。 世界各国の人形を使役し、下僕とする人形遣いである上、七色の魔法を自在に操る優秀な魔法使いである。 「んーー・・・っ、はぁ・・・。これで完成ね」 一通り書き終え、アリスは椅子の背に寄り掛かり、大きく背伸びをした。 「変な所、ないわよね? 一応見直しておこうかしら」 そう言うと彼女は、自身の手紙を最初からチェックし始めた。 『魔理沙へ いきなり手紙なんて送ってごめんなさい。驚いた? 実は私、最近サンドイッチ作りに凝っててね。 今日もランチにって思ったんだけれど、つい作りすぎちゃって。 一人じゃ食べ切れないから、良かったら一緒に手伝ってくれないかしら? 折角のいい天気なんだし、外で食べるのもありよね。いい場所があったら、私の人形に伝えてちょうだい。 それじゃ、また後でね。 中々の出来だから、楽しみにしてなさいよ! アリス』 といった内容であったが、この手紙には事実と異なる二つの点がある。 まず一つは、『サンドイッチをつい作りすぎた』という点。 この量は、アリスが意図的に二人分作るのであって、決して偶然作りすぎる「予定」は無い。 更に「予定」なので、まだ用意すら出来ていないのが現状だ。 そして二つ目。 アリスはサンドイッチなどに凝ってはいないという点だ。 そもそも普段アリスは家事全般を全て人形に任せている。 その結果料理の経験はほぼなく、凝るどころか今日が初めてという有様だった。 何故唐突に自分で作ろうなどと思ったのだろうか。 普段通り、人形に任せておけばいいではないか。 しかし、それでは意味が無い。 そう、自らの思いを相手に―――魔理沙に伝えるためには。 (最初は全然わからなかった。けれど・・・) 魔理沙の言動に笑い、怒り、喜び、呆れ、そして共に戦って、ようやく気付いた。 (私は、魔理沙の事・・・) 彼女への想いは確かだ。だが、会う度に強がりを言い、相手を、何より自らをごまかしてしまっていた。 だが、もう迷わない。 「・・・今日こそ、素直になってやるんだから!」 そう決意した彼女であったが、既に手紙で強がっているのに気付かないというのは、ご愛嬌といったところか・・・。
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