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しかし、彼には少々人間嫌いの気がある。
風変わりな言動や行動もあいまって、公卿達からは煙たがれているが、帝からの信頼は厚い。
「なるほど、確かにこれは急を要する問題のようですね。急ぎ、返事の文を書きます」
四聖は文を懐に仕舞うと、くるりと振り返って歩き始める。
桜は、慌ててその後を追った。
「如何されたのですか?」
「道真公が鬼の眷属を率いて内裏へ現れた、と。狙いは時平殿か。あの方の妄執にも呆れたものです。まぁ…右大臣まで昇りつめながら、唐突に太宰へ流されたのですから、それも致し方ないことなのか……」
「鬼……。四聖様、どうされるおつもりです?」
「内裏を救ってやる義理はありませんが、私も公僕ですからね。餌を貰って、放し飼いにされているばかりではいけないでしょう。たまには尻尾を振らないと」
四聖は桜を振り返って、妖艶に笑みを浮かべた。
ぞっとするほど美しい。そんな彼の表情が、恐ろしいと桜は感じることがあった。
「返事の文は式にでも運ばせましょう」
「あ、なら私が……」
言い掛けた桜の言葉を、四聖は片手を軽く持ち上げて制した。
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