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「四聖様っ!」
西の中門廊の先端。池に面している釣殿に、少女が探していた人物。陰陽師、山背四聖の姿があった。
「こらこら、騒がしいですよ。桜、お前は乙女なのですから、もう少し慎みというものを持ちなさい」
四聖は優雅に振り返る。
漆黒の立烏帽子。単は翠色で、白い狩衣を着ている。
薄青の指貫を履き、右手には蝙蝠(かわほり)と呼ばれる扇を持っていた。
「あぅ……。も、申し訳ありません」
「ふふっ。それでも、お前は桜の式ですからね。咲き急ぐことは本質なのでしょうか……。くすくす」
「あの、四聖様。何をされていたのですか?」
「いえ、庭を……見ていたのですよ。瑞々しくおい茂っている草花も、やがては実をつけ、枯れていきます。これらは、世界そのもの。全ての理が、この小さな空間に閉じ込められている。その草達の上に君臨している虫たちも、冬の訪れと共に死んでいく。儚いものです。ですが、だからこそ美しい」
「えっと……」
「時には立ち止まり、小さな流れではなく、全ての本質を形作っている、大きな流れを感じることが大切なのです。桜、分かりますか?」
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