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点滴のおかげで少し元気が出て父は 退院したいと 家で静養したいと 医師や看護師に訴える事が多くなった。「まだ無理ですよ食事が食べられるようになって 体力がついてからです」しかし、病院食も 食べてもすぐ 吐いてしまう。今は点滴だけが ゆいつの栄養源なのだ、私は小学校に入学して 学校帰りに毎日病院に寄る事が増えた。友達と遊ぶよりも 父の側にいたかったからだ。ある日父が アイスクリームが食べたいな 「私 買ってきてあげるよ」「一緒に行こう」父は フラフラした身体で着替えを始めて。「お父さんダメですよそんな身体で 外出しちゃ」母が止めるのも聞かず父は「さあ行こう」私は内心不安だったけど 父の望みを叶えてあげたくて 病院前のスーパーまで行く事にした。母と二人で父を抱えるように エレベーターを降り「ここでいいよ マリ行こう」父は背筋をピンと伸ばし まるで病人には見えない歩調で 歩き始めた。私は父の腕を掴んで 父の身体を支えた。「大丈夫だよ」父は 笑って言った。普通なら五分かからない スーパーにゆっくりと時間をかけ父と歩く 「いい天気だ 気持ちいいなぁ」「お父さん大丈夫?」「大丈夫だよ どんなアイスがいいんだぃ?」店は空いていた。アイスクリームのケースの中から バニラアイスを三つ選ぶと レジでお金を払い 二人はまた病院に向かって歩き出した。「ハアハア」父は肩で息をしている。やっぱり無理なんだよ。その時 母と看護師さんが 走ってくるのが見えた 「中野さん勝手に外出しちゃダメだよ」「いや 楽しかったよ 娘と買い物にいけて」父は車椅子に乗せられて病室にもどった。「アイス食べようか」母も心配もよそに父は アイスクリームを食べ始めた「美味いな マリと買ってきたアイスは美味い」だか10分もしないうちに 吐き気がして あんなに食べたかったアイスクリームも 吐いてしまった。それでも父は満足した顔をしていた。父との最期の買い物アイスクリーム。娘と体力の限界を超えてまで 行きたかった買い物。疲れたのか父は寝息を立てて眠ってしまった。私は知っているその閉じた目からうっすら 涙がこぼれていたのを。
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