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そんな時だった。妻を拾ったのは。
重い皮がずれかかって、垂れた半分を引きずりながら、家のほうへと足を運んでいた。
初め、何がいるのかわからなかった。
夜も遅かったし、木の茂った闇の深いところに、それはうずくまっていたので、大きなゴミ袋のように見えた。
やれやれマナーの悪い人がいるものよ、と拳を振りながら近付いて見ると、いきなり声をかけられた。
「由紀夫さん。」
妻の声だった。
今まで何度夢で聞いたことだろう。
風が木の葉を揺らすような、ゆるやかな、懐かしい声だった。
「君かい?」
「君ではなく、妻です。」
「妻?」
顔を近付けてよく見れば、なるほど、さなこよりも体が小さい。
黒い瞳が私を見据える。
「あなたと暮らす為に、参りました。お側に置いてください。
家事、洗濯、料理や夫婦のことは多少はできます。
一人でいては、由紀夫さん、いけません。
寂しさにたべられてしまいますよ。わたくしと共に生きましょう。」
「そうか、そうか。」
ああ、こんなところにいたのかと嬉しくなって、我が家に連れて帰った。
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