6/6
前へ
/59ページ
次へ
そんな時だった。妻を拾ったのは。 重い皮がずれかかって、垂れた半分を引きずりながら、家のほうへと足を運んでいた。 初め、何がいるのかわからなかった。 夜も遅かったし、木の茂った闇の深いところに、それはうずくまっていたので、大きなゴミ袋のように見えた。 やれやれマナーの悪い人がいるものよ、と拳を振りながら近付いて見ると、いきなり声をかけられた。 「由紀夫さん。」 妻の声だった。 今まで何度夢で聞いたことだろう。 風が木の葉を揺らすような、ゆるやかな、懐かしい声だった。 「君かい?」 「君ではなく、妻です。」 「妻?」 顔を近付けてよく見れば、なるほど、さなこよりも体が小さい。 黒い瞳が私を見据える。 「あなたと暮らす為に、参りました。お側に置いてください。 家事、洗濯、料理や夫婦のことは多少はできます。 一人でいては、由紀夫さん、いけません。 寂しさにたべられてしまいますよ。わたくしと共に生きましょう。」 「そうか、そうか。」 ああ、こんなところにいたのかと嬉しくなって、我が家に連れて帰った。 .
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加