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「いいけど、一つ言いたいことがある。」
「なんでしょうか。」
「私と夫婦になる気なら。」
「ええ、その為に参りました。」
「もう、私よりも先に死なないで欲しい。」
さなこみたいに、と口の中だけで呟く。
妻は、顔を伏せた。重たげな黒髪が、艶やかな緑の光を返しながら、うねる。
私は魅惑されて、ぐらぐらする。そのまま抱きつきたいような心持ちだ。
「わたくしの命尽きるまで、お側に居ましょう。だけれども、天命は決まっているものです。
わたくしはできることならば、あなたを最後まで看取りたい。
されど、わたくしの寿命は、神様がお定めになること、そのことはわたくしの一存では答えかねます。
でもわたくしは、精一杯、長生きできるように、あなたのために祈り、努力していきたいと思います。」
そう言うと、三つ指をついてお辞儀をした。
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