舞踏会

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      「聞きたいのだ」   年若い女騎士は毅然と答えた。 それに老人は深く息を吐く。 溜め息ではなく、何かを覚悟したように。   そしてふらりと立ち上がると、古びた本棚に向かい、一冊の本を取り、また椅子に座った。   老人がテーブルに置いたのは色褪せた、本ではなく分厚い日記帳であった。   「…私はこれをある方から受取りました。処女王に遣えていた方が書いたものですから、どの文献よりも詳しく書かれているでしょう」   「これに…読んだのか?」   「はい」   「処女王はどのような女王だった?」   騎士の言葉に老人は軽く目を伏せた。     「……女王ではありません」     「…………何?」   「…十二代国王陛下、処女王は――男性でございます」   騎士はますます目を丸くした。 一瞬、老人の頭は大丈夫かと思うくらい、混乱した。       「名前はエルメダ。誰もが讚美する、美貌の王だったそうです」               ―――――物語は、華やかな舞踏会から始まる。      
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