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青年は華やかなホールを足早に歩いていた。
肩で風を切るようなその歩き方と早さで軍人だと分かるが、爵位を持つ者が着る軍服は、華やかな舞会でまったく見劣りしていない。
――今夜、城では、国王の誕生日祝いと称されて舞踏会が開かれているのだ。
広いホールを明るく照らすシャンデリア、王室の家紋が押されている名人作の食器、それに乗る、おかかえシェフが造った最高級の料理。
そして集まった、国中の名門貴族たち。
華やか過ぎる舞踏会が、青年は苦手だった。
顔立ちもよい上、肩下まである黒髪を軽く結わえた姿が、軍人という鋭さや固さを緩やかに和らげているため、淑女令嬢によく声をかけられて対応に困るし、元来派手なことは苦手な性格だ。
それでも彼が舞踏会に出席している訳は――。
彼の主が、現国王の息子の一人であるからだ。
主が出席するのだからお付きの者が出席しない訳にはいかない。
その主は現在行方不明なのだが。
青年が、舞踏会に似合わない軍人歩きをしているのもそのせいだ。
自由奔放な主によく振り回されていたりするが、まさかこんな時まで、と青年は苦笑してしまう。
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