舞踏会

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      貴族令嬢たちの壷惑的な誘いを断りながら、青年はホールに目を向けながら歩く。 ホール中にたくさんの貴族たちがいて人探しは困難だが、主を見つける自信が青年にはあった。 なぜなら、彼の主は――、     「ナガン伯爵――エルゼウス!」   爵位で呼ばれたら無視しようと三十秒前に決意していた青年は、爵位の後に呼ばれた名前に足を止めた。 数歩後ろを振り返れば、給仕姿の友人がいた。 見習いシェフだが、あまりの忙しさに給仕を手伝うことになったのだろう。   「レシン、なんだ」   友人は酷く気まずい顔をしていた。 そばかすがある顔をやや伏せ、目線だけ上に上げる。 もしや、と青年は思った。   どこぞの令嬢にでも惚れたから、仲をとりもってくれとか言うんじゃないだろうな。   それは最も青年が苦手とすることであった。 が、友人の口から出たのはそんな言葉ではなかった。   「エルゼウスと踊りたいって言う、ご令嬢がいるんだ」   青年は思わず、は?、と返した。 見習いシェフは、だから、ともう一度同じセリフを言おうとする。 青年は慌てて止めた。   「分かった。理解したよ。すまないレシン、私は踊るのは断ってるんだ。それに今それどころじゃなくて、」
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