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「――ナガン伯爵」
青年の慌ただしいお断り、の返事を妨げる声が涼やかに響いた。
青年はその声に硬直した。
レシンも同じく硬直している。
大変勇気のいることだが、青年は振り向いた。
ゆっくりと。
シンプルだが淡い金髪によく似合う、赤いドレスを着た令嬢がそこにいた。
首元は隠れているが、肩が剥き出しなため、地味過ぎない、赤いドレスに、満開の笑み。
花も負ける微笑みだ。
「私と踊っていただけますか?ナガン伯爵」
令嬢が言った。
青年は数歩さがり、ドレスと同じく赤い手袋に包まれた手をとった。
「――私でよければ、喜んで」
そして自然な動作で、その手の甲に口付ける。
令嬢はまた、にこり、と笑った。
ホールの一番高い場所に座る者が、そのホールの最高権力者だ。
当然ながら今回は、国王その人が座っていた。
「……あれはまだか」
「はぁ…ナガン伯爵が探していたのは分かったのですが…」
国王に返したのは、第一王子のニズリーだ。
体調がよくないのか、顔色が悪い。
ニズリーのセリフに舌打ちした者がいた。
第二王子、アダレン、その人だ。
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