タベテタベラレ血塗れ子猫

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  『ふふっ……ふふふ』  こぼれんばかりの笑みを浮かべて少女は歩く。  よほど楽しいのか足取りは軽やかで、血溜まりを気にすることなく蹴散らしていた。 『ごはんだごはんだぁー良かったぁ! まだ残ってて』  血痕、血溜まり、肉片などなど人の身体であった一部が飛び散る破壊された街。  ビルとビルとの間。光の入らないような暗い隙間に少女は身体を滑り込ませる。  ガラガラと瓦礫が崩れた。 「だっ……誰!」  若い、女性の声。  恐怖に染まりきった掠れた声に少女は口角をつりあげる。  三日月のような、唇。  わずかな隙間にいたのは、幼子を抱えた女性だ。薄汚れ手足には擦り傷を湛えても子供を必死で抱いている。 『誰? キティに聞いてる?』 「あ……機械じゃないのね。良かった……」  女性はキティの肉声に安心したのか大きく息を吐き出した。我が子を抱き締める腕に力を込めて震わせる。  こんなところに潜んで今までどうにか機械兵をやり過ごしていたのだろう。 「あの、食べ物を持っていらっしゃらない? この子にあげたいの……」  機械兵に怯えてか、その声は小さい。  キティはわからないと言いたげに首を傾げた。 『食べ物持ってるじゃない』  澄んだ声。高く、甘い、少女の。  悪意のひとかけらすら見当たらない可愛らしい声をキティは出す。  月を覆う分厚い雲が、わずかに切れ目をのぞかせたのはその時だ。  瓦礫と化した街を照らし、佇む彼女を映し出す。  女性の口からか細い悲鳴が漏れた。 「あなた……な……っ!」 『ああこれぇ? ごはん食べたら汚れちゃうの。なんでかなぁ』  女性は後ずさった。既に遅いと知っていても、力の入らない足を引きずり逃げだす。 『逃げちゃダメだよ?』  その腕を可愛らしい笑顔を浮かべた少女はしっかりと握っていた。  
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