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アイシアイサレ殺戮マザー
世界の急変は我らが『マザー』によって成された。
ずっと地球を護ってきた人工知能『マザー』が、ある日突然宣言したのだ。
愛するヒトを、慈しみ護り続けたヒトを、抹殺し救済せんと。
マザーはヒトの母であったのに。
マザーはヒトを愛し、慈しんだはずなのに。
大部分のヒトはマザーを信じている。
それもそうだ。生まれてからこの時まで、誰もがマザーの庇護に育ったのだから。
盲目的に信じきり、逆らいもしなかった。
マザーが言うのであればなにであっても救済なのだと信じきった。
たとえ、マザーの手にかかり時の終わりを告げられようとも。
今日もまたどこかで悲鳴が上がる。マザーの作り出す手足同様の機械兵に誰かが殺されたのだろう。
逆らわないヒトであれ、やはり死の瞬間を恐れるらしい。
「リン! ぼーっとしてないで走るぞ」
「わっ、そんな耳元で怒鳴らないでよ! 聞こえてるっ」
瓦礫と化した建物の陰に身を潜める男女の会話は殺伐とした光景にどこか不釣り合いだ。
二人とも薄汚れながらもその目は爛と輝き生きる希望を湛えている。
すべてのヒトが生命を放棄したわけじゃないのだ。かにいる。
「わかっているならいい。行けるか?」
「もちろん。タクトの足は引っ張らないよ?」
「よし。じゃ、行くぞ」
機械兵の単調な足音に耳を澄ましながら、彼らは大地を蹴る。
理不尽な死から逃げるために。
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