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最近は進路だなんだとクラスの奴等は追われる生活を繰り返している。こんな片田舎を抜け、早々に都会へと引っ越そうと考えている奴もいる。
僕は、と言えば、そんなに将来に対して不安はない。何故なら僕の進む未来は既に決まっているからだ。
「卓也、帰ろうぜ」
僕に話しかけたのはクラスの中でも僕と特に仲がいい男子。名前は東進一(あずましんいち)。出席番号が一番という宿命を背負った悲しい奴だ。
「あ、ちょっと忘れ物したから先に行ってていいよ」
「ん、そうか。じゃあ先に帰るな」
進一はそう言って教室を出ていった。僕は再度鞄の中を探してみるが、やはり無い。美術の時間に使った彫刻刀が無い。
美術室に忘れたのかもしれない。
「行ってみようかな」
掃除も終わり生徒が少なくなった教室を出て、少し夕陽がかった太陽の光を真横から受けながら僕は美術室を目指す。鞄が重たいのはいつものこと。
そして目的地に到着した僕は一つの懸念を抱きつつも扉に手をかける。
「鍵はかかってないよね?」
願いを込めた言葉を発し、右手に力を込めて静かに扉を引いた。
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