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程なくして、虫は空の色と同化して見えなくなった。
ここ東京で出会う事が出来た喜びと、僕に見せる事が出来た喜びが重なって、雪生子はいつにも増してニコニコしている。
11月もあと1週間で終り。
来月の半ばには、雪生子の誕生日もやってくる。
『雪の日に生まれたから雪生子』なのだと、付き合い出して2ヶ月目に知った。
それは今から2年近くも前の話だ。
来月のあいつの誕生日の辺りに、あいつの両親と会う約束がある。
いわゆる『初顔合わせ』と云うヤツなのだが、どこか気が重い。
こっちに出て来るのか、それともこちらから挨拶しに行くべきなのかすら、残り半月と云うのにまだ決め切れていない。
それでも雪生子のこの屈託のない笑顔を見ていると、自分に架けられた重責も少しは軽くなると言うものだ。
まぁこいつの両親だったら上手くやっていけるかも知れないな……
そんな事を色々と考えている内に、期日ギリギリまで引っ張ってしまった。
追い込まれないと動けない。
僕の悪いクセだ。
そんな僕に何文句言うでもなく着いてきてくれる雪生子を、こんな僕でも幸せにしてやれるのだろうか……日にちが近付くにつれ不安な気持ちが少しずつ膨れ上がってきていた。
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