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「ありがとう。お陰で少し気持ちが楽になったよ」
耳元でそう言う僕の腕に抱かれながら、雪生子は2回『うんうん』と頷いて、急に子供みたいな笑顔を浮かべたかと思うと、僕をバンッと両手で突き放した。
僕は思わず荷物と一緒に、ベンチから転げ落ちた。
だらしなく地べたに座り、頭とお尻を擦る僕を、雪生子は頭の上から、面白いものでも見る悪戯っ子のような目をして覗き込んでいた。
白い歯を見せて笑っている。
何がそんなに可笑しいのかと、少々腹が立ったが、彼女のその屈託のない笑顔に免じて、今回は赦そうと思った。
「まあくん、あたし何も気付いてないと思ってる?」
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、『でしょ?』と言って雪生子が小首を傾げてみせた。
その時僕は、それが己の愚かさだと知った。
彼女はいつも僕の先の先を考えていてくれる。
そんな事は付き合って2年も経てば十分解っていたはずなのに、僕一人で重たい荷物を背負い込んでいるつもりになって、必死にもがいていたのだ。
僕は急に恥ずかしくなって、雪生子に背中を向けた。
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