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「はい、これ」
雪生子の掌で、つい今し方まで雪虫だったはずのそれは、いつの間にか2枚の飛行機のチケットに変わっていた。
『12月14日 17時 羽田発 東京~札幌』
「これって……」
「あたしの誕生日。一緒に行ってくれるでしょ?」
僕はここにきてやっと彼女の一連の態度が理解出来た。
雪生子は最初っから誕生日に顔合わせの日をセッティングしていたのだ。
いくら勘の鈍い僕でも、さすがにここまでくれば何となく状況が判る。
そう。よく考えてみれば、両親との会う約束の話も雪生子からの提案だ。
この時期を選んだのだって、恐らくは僕の優柔不断な性格の『先の先』を見越しての事だろう。
僕がどう反応するか試したな!?
僕は自分の不甲斐なさに『はー……』とため息を吐いた。
「きっと雪でいっぱいなんだろうなぁ」
夕暮れ間近の優しい光りが、雪生子の頬を照らす。
遥か向こうの生まれ故郷の雪景色でも見るかのような目で、雪生子はそっと呟いた。
「雪虫もあたし達を迎えに来たんだね、きっと」
僕は彼女の瞳の奥に映る、美しく雪化粧された真っ白な街並みをぼんやりと眺めながら、挨拶の言葉を探していた。
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