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龍太郎は、トースト二枚とコーヒー一杯の朝食をとった。
そして、制服に着替え、髪をワックスで軽く整えた。
用意が終わると、龍太郎は仏壇の前に正座した。
「母さん……今日もいって来ます」
龍太郎に母はいない。
四年程前の事、戦争ジャーナリストをしていた龍太郎の母は、その時、激戦区だと騒がれていた戦地に赴き、二度とその太陽のような笑顔を見せることは無かった。
遺品として、フィルムが残り少ないカメラがあった。
そこには、いくら忘れようと努めても、忘れられない凄惨な記憶が刻まれていた。
龍太郎はその写真を見て、幼いながらも、自分の生活の平穏さと母の仕事の偉大さを確かに感じとっていた。
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