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あれから美砂は努めていつも通りに過ごしていた。
そんな彼女を半ば気付かないふりをし続けた僕は、翌朝いつもより早い時間に立ち上がった。
「美砂、行こう」
「まだ早いわ」
「たまには良いじゃん」
「………これからずっとそうなるわよ」
「…………え?」
美砂は不服そうに後ろに乗っていつもよりぎゅっと僕に手をまわした。
「見捨て無いでね」
消え入りそうな美砂の声が重く胸にのめり込んだ。
返事をする代わりに美砂の手を柔らかく握ると背中が小さく濡れた。
黙ってペダルを踏んだ。
美砂の不安がこの涙で全部流れ出れば良いと都合の良いことを考えながら。
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