8月1日(金)【紗耶】

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    紗耶 「ん」   紗耶は俺に寄りかかり、静かに頷いてみせる。   雅樹 「興味を持つのはいいことだ」   紗耶 「………」   雅樹 「だけどな? “できる”ことと、 “やっていい”ことは違うんだ」   紗耶 「………」   反応がないが、紗耶ならきっとわかってくれているだろう…。   だから俺は続ける。   雅樹 「けど、紗耶はそこらへんを教わらなかった」   怜や親は紗耶に甘すぎた。   それが一番の原因だろう…。   雅樹 「でもこれから知ればいい。 たくさんたくさん、 教わればいい」   紗耶には多くの友達ができた。   弥生も鈴音も琴音も奈緒も紺も翠も…そして俺も、紗耶の理解者でいたい。   雅樹 「じゃないと、 独りぼっちになっちゃうぞ?」   しかし、現実はそんなに甘くはない。   ずっと俺たちは一緒にいれるわけじゃない。   いつか自立しなければならない日がくるはずだ…。   その日のために、紗耶はこれからいっぱいいっぱい学ばなければならない。   紗耶 「独りぼっち…?」   雅樹 「そうだ。いやだろ? また前みたいに独りぼっちだ」   紗耶 「いや…」   雅樹 「ん…」   紗耶 「独りぼっちはいや。 雅樹も弥生も鈴音も紺も琴音も奈緒も翠も、 みんなみんな一緒がいい」   雅樹 「ん…」   紗耶の声が震えている。   俺と会う前の紗耶は酷かった。   いや…酷いのは紗耶じゃない。   紗耶の両親、そして怜だ。   両親は共に忙しく、紗耶の相手なんか全然しなかった。   怜も今とは大違いで、紗耶とろくに話もせず毎日ほったらかしだった。   だから紗耶は毎日あの広い家の中でずっと閉じこもり、独りで寂しい想いをしたに違いない。   家政婦さんがきちんと相手をしてあげただろうけど、それはやっぱり家族とは違う。   ……紗耶は家族の素晴らしさを知らないんだ…。   紗耶がいまだに怜を好きになれないのは、きっとその辺りが原因だ。   紗耶 「もどりたくないよ。 ずっとずっと雅樹と一緒にいる」   泣きながら頭でガンガンと、俺の胸に頭突き。   雅樹 「いて、お、落ち着け。 だいじょっ、うぶだから」   紗耶 「………」   雅樹 「大丈夫だって…。 奈緒だって翠だって、 ちゃんと謝れば許してくれる」   紗耶 「………」   雅樹 「できるよな?」   紗耶 「ん」   膝から飛び降り、ゴシゴシと目をこすり涙をふく。    
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