暗黒街の商人

4/7
前へ
/44ページ
次へ
「何言ってる。アスカが何かバリューに注文したんだろ」 「いえ、私は何も頼まれていませんよ」  アスカに頼まれていたんじゃないのか。だったらアスカへの用事はなんなのだろう。 「あたしに何か用事?」 「特に何も。ただルクさんじゃ注文を頼んでくれそうにないので」  ……それだけの為に家にあがりこんできたのか。  結局家に入れたのは僕なのだから文句は言えないが……いい性格をしている。目の前の男から目を逸らし溜息をついた。 「悪いけど注文はないからさっさと帰ってくれない? 疲れてるの」 「今日はどちらまでいらっしゃってたのですか?」 「あんたには関係ないでしょ」  アスカもやはりこの男があまり好きではないようだ。まあアスカのこの乱暴な態度はほとんどの人間に対してだが。  対するバリューも生活がかかっているのだからかなりしぶとく家に居座る。そして最後はたいていキレたアスカがバリューをドアの外まで引きずって追い出す。  しばらく二人が言い合っているとどこからか携帯の着信が鳴った。二人も気がついたようで喋るのを中断し、アスカはジャケットのポケットに手をいれまさぐった。 「ほら、仕事の依頼のメールよ。あんたは邪魔だから帰って」  手をバリューに向けて追い払う仕草をしながら片手で携帯を開き、メールを読みはじめた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加