77人が本棚に入れています
本棚に追加
「依頼主は本多研究所所長。依頼内容は暗殺……か」
「本多研究所……ってことは本多博士からの依頼ですか」
アスカが棒読みでメールの内容を読みあげると【本多】という名に反応したバリューが携帯を覗きこんだ。
「その本多博士って……有名なの?」
「かなり異例の研究をなさっていて研究者の間では噂になっています」
「ふーん」
聞いたわりにはアスカはどうでもよさそうな反応だ。
「その研究ってどんな研究なんだ?」
「簡単に言うと薬の研究です。新しい成分を調査したり、薬品同士を調合して新しい薬品を作り出したり……私、一度博士の研究所に注文品を届けに行ったこともあります」
バリューはその一般に流通されない品物も取り扱うことから暗黒街以外でも商売をしている。むしろ暗黒街よりもそっちの方が儲けられそうだが。
「その注文ってなんだったんだ?」
「虚人ですよ。実験体にするらしくて」
何げなく聞いたつもりだったが、質問の答えは僕の背中を一瞬で凍りつかせた。
研究所……。
実験体……。
……浩也?
「それってもしかしてこれ?」
緊張で体を動かせず、視線だけをアスカに向けると、バリューに向かい携帯の画面を見せていた。
「いえ、この少年ではありません。私が売ったのは二十歳前後の女性でしたから」
少年……。
嫌な予感のピースが全て繋がり、ようやく体が動くようになった時には、アスカの手から携帯をかっさらっていた。
その画面に写っていたのは見間違うはずのない、今日出会ったあの少年の姿だった。
最初のコメントを投稿しよう!